概要と沿革
日本免疫毒性学会は、1994年6月に有志により創設された免疫毒性に関する研究会「免疫毒性研究会」から発展し、2001年4月に学会組織として設立されたものです。本学会は、医、薬、理、農等の各分野の研究関係者から構成される学際的学会として、現在約260名余の会員を擁しており、免疫毒性研究分野の単独学会としては国際的にもユニークなものです。免疫毒性研究は、化学物質や医薬品・食品成分による免疫不全、アレルギーや自己免疫を主な研究対象として発展してきましたが、近年、社会問題となる種々のアレルギーや感染症が増加し、また、種々の慢性疾患における免疫機序の関与が知られるに及び、これらに関連する免疫毒性研究が必須とされ、本学会への期待が増しています。
今日、トキシコロジーの分野は、生命安全科学あるいは健康安全科学などの名称で統合的にとらえなおされつつあります。医薬品を始めとする化学物質や食物、諸生活環境因子の免疫系に対する影響やそれを介する健康影響についての科学研究分野である免疫毒性学は、トキシコロジーの一翼を担う一方、ポストゲノム時代に向けての免疫的手法の有効性の再認識や、昨今の新型感染症の脅威や化学物質過敏症、バイオ医薬品や遺伝子組換え食品の安全性の問題が加わり、トキシコロジーの枠を超えた免疫安全科学としてその重要性が増しつつあります。大学、企業、行政機関などの研究関係者から構成される本学会は、免疫と健康に関する基礎から応用、さらにリスク評価や規制などの実用面にまたがる事象を対象としています。
免疫毒性に関する諸研究は、今日諸分野でなされていますが、かえって研究の論点が分散する傾向があります。このような状況は、免疫毒性研究の中核としての本学会の役割と責務を高めています。そのため本学会は、日本トキシコロジー学会、日本薬学会、日本産業衛生学会等の関連学会の共催や協賛を得て、学術年会を主催してきました。学会の成果としては、学問分野としての免疫毒性学のわが国における認知と研究水準の向上に、また、医薬品審査国際協調会議(ICH)への対応に向けた免疫毒性試験法のガイドラインの作成とICHで積極的な役割を担う会員の活躍、などに寄与してきました。その他の掘り下げるべき多くの免疫毒性関連課題も待機しています。本学会活動は、免疫毒性研究の駆動力として、免疫毒性研究の諸課題のためのアプローチを率先して提示することが求められています。そのためにも、本学会は、単に研究の成果の発表と交流の場にとどまらず、研究への新たな刺激や動機が得られ、学問的あるいは社会的な問題提起となる情報発信の場であることを使命としています。本学会の活動は、免疫と健康との関係の探究を通じて、加速し始めた今世紀の安全科学およびその基礎科学の発展や、さらに健康福祉の面の社会のニーズに、大きな貢献ができるものと期待されています。
(大沢 基保 記)